西洋音楽史、ロマン主義の8回目です。さて、初期ロマン派において最重要人物とされるのはシューベルト Franz Peter Schubert ですが、シューベルトに続いて初期ロマン派を代表する音楽家は、メンデルスゾーン Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy 、シューマン Robert Alexander Schumann 、ショパン Fryderyk Franciszek Chopin です。
前回のエントリーまでこの3人のうちメンデルスゾーンとシューマンを取り上げましたが、今回はショパンを取り上げます。
1.生まれ、特徴
ショパンはポーランドに生まれました。1831年からパリで活動するようになり、パリで一生を終えました。ショパンは一流のピアニストでした。
作品の大部分はピアノ独奏曲で、ジャンルも
と、多岐に渡っています。
※バラード: もともとは、古いヨーロッパの詩形、もしくは世俗抒情歌でした。フレデリック・ショパンによって、器楽曲の名称に転用された。
※前奏曲: (他の楽曲の・大規模な楽曲の)前に演奏する楽曲の意味。普通は、声楽を伴わない器楽曲です。本来はリュートや鍵盤楽器によって即興により演奏されるものでしたが、後に書きとどめられるようになり、しばしば演奏技巧を発揮するような曲として、また、即興的な自由な作風の作品として、作曲されるようになりました。
作品の様式は、ピアノという楽器の特性を生かしたものです。
2.ピアノ曲
ショパンは愛国心が強いと言われ、ポロネーズ polonaise やマズルカ mazurek といった、ポーランドの民俗舞曲に基づいたピアノ曲を多く残しました。
マズルカに基づいたピアノ曲からは、民族的な音の使い方が見受けられ、例えば
- 作品68−2: 4度音を半音高くした音階(4度は、「ド」であれば「ファ」)
- 作品17−4: 5度のドローン(5度は、「ド」であれば「ソ」)
です。
※ドローン: 単音で変化の無い長い音を指す音楽用語
ショパンの作品には、華麗な外見や抒情的な表現など、聴衆の人気を集めやすい特質があります。一方で、独創的で革新的な側面もあります。
3.形式
3−1.スケルツォ
ショパンの作品の形式は、3部形式やその自由な変形として理解できるものが多々あります。
ショパンは4曲のスケルツォを残しましたが、主部とトリオから成立する伝統的な方を踏まえながら、独自の方法で発展させています。
たとえば、スケルツォ第2番変ロ短調では、トリオに展開の手法が取入れられ、この部分が全体の4割以上を占めるほど大規模になっています。
3−2.ソナタ形式
協奏曲は、ピアノ・ソナタではは、第1楽章こそソナタ形式ですが、古典派のソナタ形式とは異なっています。
例えばピアノ・ソナタ第2番・第3番では、第1主題の再現が省略され、第1番では第1主題の再現が主調(ハ短調)ではなく変ロ短調から始まります。
・ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調《葬送行進曲付き》
・ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調
また、伝統的な捉え方では分類できない形式もあります。
5.和声
ショパンの作品の特徴としては、和声の斬新さを挙げることもできます。
- 付加音や変化和音の頻繁な使用
- 借用和音の連続的な使用
- 減7の和音で、解決なしに連続してクライマックスを形成する
- 遠隔調への大胆な転調・一時的な転調
といった効果です。ピアノ・ソナタ第2番やスケルツォ第3番の冒頭では、調性が極めて曖昧になっています。
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』