2017 年に始まり, おそらく 2017 年に終わるジャンルとしての「エモ」いラップ

「Look At Me」のヒット, およびアルバム『17』のリリースで注目を集めている新人ラッパー, XXXTentacion. 彼の音楽性は, エモ・ラップ, あるいはエモ・ヒップホップという言葉で語られることがあります.

ラップを形容する際,「エモ」という言葉が使用されることは今までもありました. しかし, それは多くの場合, 楽曲に対する形容でした. XXXTentacion の音楽性へ「エモ」と言われる場合, 事情は少し異なります. というのも, XXXTntacion に対して「エモ」と言う場合, それはヒップホップの「ジャンル」名として使われているからです。

「エモ」という言葉がヒップホップのジャンルとして使われているということは, XXXTentacion 以外にも、エモ・ラップあるいはエモ・ヒップホップに括られるアーティストがいるということです. たとえば Lil Peep や nothing, nowhere.

なお, The Guadian 誌は Lil Peep に対し, エモ・トラップという言葉を使用しています.

その他, エモ・ラップやエモ・ヒップホップ, エモ・トラップ以外に, 似たような意味での = エモいヒップホップをジャンル名として使用している言葉として, サッド・ラップもあります.

エモ・ラップ, エモ・ヒップホップ, エモ・トラップ, サッド・ラップなどなど, まだまだ呼ばれ方が様々な「エモ」と結び付けられたヒップホップの新ジャンルですが, ひとまず, ここではエモ・ラップに統一するとして, ではこのメモラップとはどういった音楽なのでしょうか. この記事では, エモ・ラップのルーツ, そしてその音楽的特徴について紹介したいと思います.

目次

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エモ・ラップ以前の「エモい」ラップ

Lil Peep, XXXTentacion, nothing, nowhere を指してエモ・ラップという場合は, エモ・ラップは確かに, 2017年の新しいジャンルだと言うことができます. しかし,「エモ」という言葉は音楽に限らず広く一般的な言葉です. なので, 2017年より前にすでに, リリックの内容が「エモ」いラップ曲に対して, 慣用的に「エモ」という言葉を使用して形容することがありました.

その楽曲が「エモ」と形容されていたのは, たとえば Gym Class Heroes, Hollywood Undead, そして Eminem . さらには Tupac やNelly, Jay-Z, Joe Budden, Kanye West そして The Notorious B.I.G らです. 彼らの楽曲がエモ(・ラップ) と形容されていたとしても, 2017 年にエモ・ラップと呼ばれているジャンルのような音楽的特徴を備えていたわけではありません. 彼らの楽曲が「エモ」とか「エモい」とか「エモ・ラップ」などと形容されていた場合は, ジャンル名ではなく, ただそのリリックの内容についてでした.

エモ・ラップへ多大な影響与えた Kid Cudi

2017 年現在のエモ・ラップへ多大な影響を与えたラッパーとしては, Kid Cudi が挙げられます.  Kid Cudi の 2009 年のアルバム『Man On The Moon』は, その憂鬱や孤独, 不安を表現したリリック内容から, HotNewHipHop や DJBooth, そして IBTimes といったメディアによって,今日的なヒップホップへ大きな影響があると影響を認められています.

エモ・ラップへ影響を与えた作品としては他に, Kanye の『808』, Drake『So Far Gone』が挙げられるでしょう (『808』には Kid Cudi も参加しています).

Drake は歌詞の面からだけでなく, インディー・ロックをサンプリングするという手法の先駆者として, エモ・ラップへの影響を与えたとみなされてます。

エモラップの音楽的特徴

ではエモ・ラップは, いままでのメインストリーム・ヒップホップとどのような点で音楽的に異なるのでしょうか.

まずは より感傷的で, 内省的な, あるいは叙情的といってもいいかもしれませんが, そういった「エモ」い歌詞でしょう. ただ, それだけではありません.

こうしたエモい歌詞が, トラップのビートでラップされていることも, エモ・ラップへ新規性を与えています. しかし同時に, インディー・ロックであるとか, ポップ・パンクであるとかと言われる音楽からのサンプリングもまた, このジャンルへ新規性を与えている要因です. サンプリングでない場合は, インストに生楽器による演奏が使用されることもしばしばあります. なお, ポップ・パンクからのサンプリング自体は, 2004 年に MC Lars が Underoath や Brand New などを使うことで広まったもので, 完全に新しい手法というわけではありません.

まとめると, 2017 年に新しいとされて注目されている「エモ・ラップ」は, 内省的・感傷的な歌詞と, トラップのビート, インディーロックからのサンプリングあるいは生演奏を使用したインストと, 特徴づけられるでしょう.

エモ・ラップを特徴づける個々の要素は決して新しいものではありませんが, それらの要素が揃うことで, 2017 年の新しいヒップホップになっていると言えます.

このような特徴を持つエモ・ラップについて Gothboiclique の Horse Head は,次のように語っています.

ノスタルジックの一種だけど, 新しくもある. いままで誰もエモ・ラップやメロディック・トラップみたいな音楽を作ったことはなかった

エモ・ラップの今後

2017年の新ジャンルとして注目を集めているエモ・ラップですが, 今後ジャンルとして成熟し,  2018 年以降も続いていくかと言うと, あまりそうは思えません.  XXXTEntacion の言動は精神的に不安定なところがありますし, そして本当に残念なことに, Lil Peep は急逝してしまいました. また、エモ・ラップと近しいところで語られるジャンルであるサウンドクラウドラップを代表するラッパー, Lil Pump もまた, とても精神的に不安定な言動を繰り返しています.

エモ・ラップは, こうした精神的な未成熟さをヒップホップと言うエンターテイメントへ昇華させたジャンルであり, 現在注目を集めているラッパーたちが精神的に成熟してしまうと, その音楽的興味深さはなくなってしまうでしょう. またフォロワーが出てきたとしても, それは二番煎じ三番煎じになり, 新規性という面白いインパクトは薄れてしまいます.

エモ・ラップは, 2017年に生まれて2017年に終わるジャンルかもしれません. そうであればリスナーは, このジャンルが誕生しそして終わっていく様子を見届けるという貴重な体験をできるわけですが…

エモ・ラップは, 私たちリスナーが若い才能の未成熟さを, ただエンターテイメントとして消費してしまっているという恐ろしく罪深い存在であることを, そういった現実を突きつけるのです.

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