西洋音楽史、ロマン主義の11回目です。さて、ドイツでリスト Liszt Ferenc やワーグナー Wilhelm Richard Wagner がロマン主義における革新的な傾向を開始したのに対し、19世紀後半には新古典主義と呼ばれる音楽家たちが台頭します。
1.新古典主義
新古典主義の特徴は、過去からの伝統を重視することにあります。ただし、この場合の「過去」は、古典派だけではなく、バロック以前にまで遡ります。
また、過度の感情表現を抑制すること、ソナタ形式などの伝統的な形式を守ることなどによって、古典的な明晰さ維持しようとしました。
機能和声を尊重しますが、これはリストやワーグナーによる半音階的和声を踏まえた上での全音階主義への復帰でした。
2.ブラームス
2−1.伝統の重視
新古典主義の代表として挙げられるのが、ブラームス Johannes Brahms です。ハンブルクに生まれ、ウィーンで活躍しました。
ブラームスは作曲にあたり、バロック以前にまでさかのぼり伝統を重視しました。例えば、交響曲第4番の第2楽章では、中世のフリギア旋法を用い、第4楽章では、バロック時代のシャコンヌ chaconne に基づいています。
※シャコンヌ: 特定の低音および和声進行を繰り返すオスティナート・バス(オスティナート ostinato とは、ある種の音楽的なパターンを続けて何度も繰り返すこと)を用いた曲の呼称のひとつ。
2−2.ジャンル
ブラームスはあくまで、古典派的な形式的枠組みを基礎とし、創作しました。交響曲においては、シューマンよりも保守的であるという評価があるほどです。また、室内楽においては19世紀最高の作曲家だったいう評価もあります。
- ピアノ三重奏曲第1番ロ長調作品8
管弦楽の規模は、ベートーヴェン Ludwig van Beethoven に準じ、2管編成をとっています。
また、主な楽曲形成の手段は、徹底した主題動機労作です。
2−3.歌曲、ピアノ小品
しかしブラームスは、本質的にはロマン主義の作曲家でした。
歌曲ではシューマン以来の最も注目される作曲家でした。また、魅力的なピアノ小品も数多くあります。
・《永遠の愛》Von ewiger Liebe
2−4.和声
ブラームスは伝統を重視していたとは言え、単純に古典的だったわけではありません。同じことが、和声法にも言えます。
この例として、《ピアノのための6つの小品》Sechs Stücke für Klavier 間奏曲 変ホ短調が挙げられます。
この作品では、調号・終止和音から判断すると変ホ短調ですが、大部分が変ロ短調の特徴を示しています。その上、長く伸ばされた変ロ短調の減7の和音で始まり、なかなか主調が確立しません。
3.ブルックナー
3−1.生涯と作品の関係
ブラームと同時期にオーストリアで活躍していたのが、ブルックナー Josef Anton Bruckner です。ブルックナーはオーストリアの小さな町に生まれました。1868年、ウィーン音楽院の教授に登用され、生涯のほとんどをそこで過しました。
ブルックナーもまた、ブラームスと同じく標題音楽や舞台作品を作りませんでした。長大な交響曲と、宗教曲の分野で、数多くの傑作を残しています。
しかし、ブルックナーの作品は繰り返し厳しい批判に晒されました。このため自信を失い、たびたび作品に変更を加えました。また、弟子が勝手に変更した楽譜が出回ることもありました。
20世紀に入ると、作曲者本来の意図を復元する目的で原典版が編纂されることに成ります。
3−2.交響曲
ブルックナーの交響曲は、ベートーヴェンとシューベルト Franz Peter Schubert からの影響を強く受けています。特にベートーヴェンの交響曲第9番は、彼の交響曲すべての着想の土台に成っていると言われています。
楽章編成は、伝統的な4楽章制です。第1楽章と第4楽章は、伝統的なソナタ形式の枠組みに従っています。
ただ、提示部で主題が3つあり、多くの場合それぞれの主題部間の推移がほとんどありません。また各主題は、複数の動機を組み合わせた複合主題という形を成しています。
展開部では、主題や動機がゼクエンツ Sequenz などによって延々と繰り返されます。
※ゼクエンツ: 作曲技法のひとつで「反復進行(短いフレーズを繰り返す)」のこと。
和声法や、管弦楽の規模を大きくする用法には、ワーグナーからの影響が見受けられます。和声は半音階的で絶えず転調し、楽章の開始直後から遠隔調の一時的な借用が行われています。
- 交響曲第4番《ロマンティック》Die Romantische
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』