西洋音楽史、ロマン主義の16回目です。さて、前回のエントリーでは、ロマン主義終焉の兆候のある音楽家を取り上げました。今回取り上げる、フランスで生まれた音楽様式である印象主義 Impressionnisme もまた、ロマン主義終焉の流れに位置づけられます。
印象主義という言葉は、もともとはモネ Claude Monet の絵画「印象: 日の出」Impression, soleil levant にちなんで誕生した美術用語です。
(By クロード・モネ – art database, パブリック・ドメイン, Link)
後に転用されて音楽用語として使用されるようになります。
1.ドビュッシー
印象主義の創始者で代表的音楽家と言われているのが、ドビュッシー Claude Achille Debussy です。ドビュッシーは以前とまったく異なる音楽様式を創造しました。ドビュッシー独特の様式は、歌曲集《艶なる宴》第1集 Fêtes galantes Set 1 や、管弦楽曲《牧神の午後への前奏曲》 Prélude à l’après-midi d’un faune によって確立されたと言われています。
- 《艶なる宴》 より〈月の光〉Clair de lune
- 《牧神の午後への前奏曲》
特徴としては、・教会旋法・5音音階・全音音階などの、長調・短調以外の音階を使用したこと、
- 〈帆〉Voiles
また、
- 付加音のついた音階の使用
- 不協和音を解決させずに連続的に用いること
- 平行和音や平行音程の使用・さまざまなリズムパターンを併用しリズムの輪郭をぼかすこと
などが挙げられます。
ドビュッシーの音楽を理解するためには、伝統的な理論は必要ありません。必要なのは、自分の感受性を研ぎすませ、瞬間々々に生まれては消える音響をとらえつづけることです。
ドビュッシーは、声楽・器楽を問わずに様々なジャンルで作品を残しました。なかでもオペラ《ペレアスとメリザンド》Pelléas et Mélisande は、象徴主義的手法が用いられていて、20世紀オペラの最初の傑作だと言われています。
2.ラヴェル
ラヴェル Joseph-Maurice Ravel は、ドビュッシーに並んで印象主義の代表的な作曲家とされています。ドビュッシーとラヴェルの様式には共通点もありますが、相違点もかなりあります。ドビュッシーに比べると、ラヴェルの旋律派はっきりしています。また、形式の面では、構成が明確で、バランスがとれています。こうした点で、ラベルは古典主義的傾向をもっています。
- 〈水の戯れ〉Jeux d’eau
3.20世紀の音楽へ
当エントリーと、前回の前回のエントリーで取り上げた、マーラー Gustav Mahler やヴォルフ Hugo Wolf、R.シュトラウス Richard Georg Strauss、そしてラヴェルやドビュッシーといった音楽家たちは、19世紀音楽の最後の輝きと言うことができるでしょう。しかし同時に、その中から20世紀の音楽の兆候を聴くこともできます。そして、マーラーが最後の交響曲《大地の歌》Das Lied von der Erde を完成させたのと同じ年に、シェーンベルク Arnold Schönberg が無調の作品を書き始め、いよいよ20世紀の音楽が始まります。
- マーラー《大地の歌》
- シェーンベルク《2つの歌》
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』