音楽的耳と内的聴覚: 音楽表現の核心に迫る

音楽を聴く際に、私たちは何を感じ、どのように理解しているのでしょうか?音楽的才能とは、生まれつきのものなのでしょうか。それとも訓練によって培われるものなのでしょうか?今回のブログでは、J. Rimas ・J. Rimas Jr「The Search for Abilities and Characteristics Which Produce Expression of Quality」(2024) を基に、音楽表現を生み出す能力と特性について掘り下げていきます。

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音楽的耳とは何か

The Search for Abilities and Characteristics Which Produce Expression of Quality」によれば、音楽的な創造活動や演奏において最も重要な要素の一つが「音楽的耳(musical ear)」です。この能力があることで、ピッチや音色、リズムなど、音楽の要素を微細に感じ取り、それらがどのように組み合わさって機能しているかを理解することができます。

音楽的耳の能力は、以下のように分類されます:

  1. 絶対音感(Absolute pitch):基準音なしで音の高さを特定する能力。
  2. 相対音感(Relative pitch):他の音との関係性から音の高さを認識する能力。
  3. 内的聴覚(Inner hearing):実際に演奏しなくても、頭の中で音楽を想像し、それを「聴く」能力。

音楽の理解には、この内的聴覚が極めて重要であると論文は強調しています。演奏する際には、ただ音を正確に出すことが目的ではなく、その音の背後にある構造的な意味を理解し、それを表現することが求められます。

内的聴覚と音楽の表現

音楽的耳と一般的な聴覚は異なるものであると、J. Rimasらは論じています。音楽的耳は、単に音を聞くだけではなく、音の背後にある意味を捉えることを含んでいます。特に「内的聴覚(inner hearing)」は、音楽を演奏する際に重要な役割を果たし、演奏者が楽譜を見たときに、ただの音符の点の集まりとしてではなく、音の流れや構造を理解する手助けとなります。

音楽の表現においては、演奏者が「見る」「聴く」「演奏する」という三段階のプロセスを踏むべきであり、これらのプロセスがしっかりと連携して初めて、音楽の意味が真に表現されるのです。

音楽的耳の育成

論文では、音楽教育における「正しい方向付け」が重要であると述べられています。音楽を聴く際には、単に音を分析するのではなく、音楽全体の意味を理解することが大切です。音楽の教育は、音符一つ一つをただ正確に演奏することではなく、それらがどのようにして一つの意味のある音楽作品として構成されているかを理解することが求められます。

カール・マルティエンセンの音形成論

音楽表現の形成において、カール・マルティエンセン(Carl Martienssen)が提唱した「音形成の心理学的原理」も紹介されています。彼の著書『Individual Piano Technique』では、音楽の演奏者が外見的な技術に偏らず、内的な創造力に基づいて音を形成する方法を重視しています。マルティエンセンは、特に内的な音楽的意思が音の質を高めると述べています。

例えば、彼はモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)の初期の作品を例に取り、音楽的なプロセスがどのように形作られるかを説明しています。モーツァルトは音符を知る前から、内的聴覚によって音楽を感じ取り、それを実際に音として再現する能力を持っていたとされています。

音楽と心理のつながり

さらに、音楽の表現は物理的な音の出し方だけでなく、心理的な側面にも強く依存していると論じられています。音は心理的な力によって初めて音楽的なトーン(tone)に変わり、ただの音としてではなく、内なる生命の表現として機能します。ここでの「トーン」は、単なる物理的な音ではなく、感情や意味を伴う音であることが重要です。

音楽表現の発展

音楽の表現には、音の高さや音色だけでなく、「ライン(line)」の形成や「リズム(rhythm)」の重要性も含まれています。特に、論文では音の流れを構成する「ラインの意思(Linienwille)」が音楽現象を作り上げる要素の一つとして紹介されています。絶対音感を持つ人々の中には、音の点を認識する能力が優れている一方で、音楽のプロセス全体を理解する力が不足していることがあると述べられています。

音楽のリズムとフォルム

音楽表現の一環として、リズムの形成も重要な要素です。ピアニストにとって、リズムの意思(Rhythmuswille)は、演奏における創造的な音の意思の不可欠な要素であり、音楽のプロセスを正確に表現するための鍵となります。さらに、音楽の「フォルム(Gestalt)」の意思は、作曲者の心の中で創造される全体像を指し、演奏者はそのフォルムを音に変換する役割を果たします。

まとめ

The Search for Abilities and Characteristics Which Produce Expression of Quality」は、音楽的表現を生み出すための多様な要素とプロセスを詳しく解説しています。音楽を理解し表現するには、単に技術的な能力だけでなく、内的聴覚や心理的な要素が重要であることが強調されています。音楽的な耳を育てることで、演奏者は単なる音の羅列ではなく、音楽の背後にある意味を捉え、真に表現することができるのです。

音楽を愛する全ての人々にとって、この論文は深い洞察を提供し、音楽的才能の本質について新たな視点を与えてくれるでしょう。


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