音楽は私たちの日常生活に欠かせない要素であり、歌詞は音楽を聴く際に重要な役割を果たします。しかし、歌詞の内容、その時間的進化、そしてジャンル固有の変動に関する複雑な関係は、まだ完全には理解されていません。この記事では、「ポップ音楽の歌詞は過去50年間でどのように変化してきたのか?」という疑問に答えるために、さまざまな歌詞の記述子を使用して、西洋のポピュラー音楽の英語歌詞のダイナミクスを調査した研究「Song lyrics have become simpler and more repetitive over the last five decades」(DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-024-55742-x)を紹介します。
研究概要
この研究は、過去50年間にわたるポピュラー音楽の英語の歌詞における変化を、歌詞の「複雑さ(complexity)」、「構造(structure)」、「感情(emotion)」、「人気度(popularity)」といった複数の記述子(descriptors)を用いて分析しました。ここでいう「記述子」とは、歌詞の特徴を表すために使用される指標やパラメーターのことで、科学的な研究において歌詞の分析を定量的に行うために用いられます。
記述子とは?
- 複雑さ(Complexity): 歌詞の語彙的複雑さや可読性を指します。語彙の多様性や使用される単語の平均的な長さ、文の長さなどがこのカテゴリに含まれます。
- 構造(Structure): 歌詞の繰り返しやリフレインの使用など、歌詞がどのように構築されているかを表します。具体的には、コーラスが何度繰り返されるかや、バースとコーラスの配置パターンなどが分析されます。
- 感情(Emotion): 歌詞に表現されている感情の内容や強度を示します。喜び、悲しみ、怒りなどの感情がどれだけ強く表現されているか、または歌詞全体のトーンがポジティブかネガティブかを測定します。
- 人気度(Popularity): 歌詞の人気度やリスナーによる受け入れ度を示します。これは、再生回数やダウンロード数、ソーシャルメディア上での言及数などによって評価されます。
研究結果
研究結果によると、ポップ音楽の歌詞は過去50年間でよりシンプルで理解しやすくなっています。具体的には、歌詞の語彙的複雑さが減少し、構造的複雑さも下がっています。これは、歌詞の中で同じフレーズや単語の繰り返しが多くなっていることを意味します。また、歌詞に表現される感情がよりネガティブになり、より個人的なテーマが増えていることも確認されました。さらに、リスナーの音楽ジャンルによる好みの違いが示され、特定のジャンルのファンが新旧の歌詞に対して異なる関心を持っていることが明らかになりました。
結論と今後の展望
この研究は、音楽と社会の相互作用、特に歌詞がどのように社会の変化や人々の感情、価値観を反映しているかを示すものです。結果は音楽情報検索や推薦システムの開発において、ユーザーの歌詞への好みをより精密に把握し、パーソナライズされた体験を提供するための貴重なインサイトを提供します。今後、さらに多様なジャンルや言語にわたる研究が行われることで、音楽の歌詞が持つ文化的、社会的価値に関する理解が深まることを期待しています。
この研究は、音楽が我々の日常生活において果たす役割、及び時間を超えてどのように進化し、変化してきたかを理解する上で重要な一歩です。音楽業界、文化研究、心理学、さらには社会学の分野においても、この研究の結果は貴重な洞察を提供し、今後の研究の方向性を示唆するものです。