先日、宮﨑駿の新作アニメ映画『君たちはどう生きるか』の考察記事、「革命のリビドー」を公開したのですが、
「革命のリビドー」では、フロイトやマルクスなどを参考にしながら、独自な視点で考察しました。
ただ、「革命のリビドー」は、過去の思想家の概念を援用することで物語の構造を一般的に明らかにしようと、試みた一方で、映画『君たちはどう生きるか』の現代的価値については、取り上げられませんでした。
この記事では映画『君たちはどう生きるか』が、令和 5 年に公開された意味、そしてその価値を考察します。「革命のリビドー」のもう少し深掘りというか、ただしもっとシンプルに、あるいは別視点での、映画『君たちはどう生きるか』の考察ですね。
映画『君たちはどう生きるか』の現代的価値といった場合、およそ次のことを念頭に置いているのですが、それは、この映画は誰のための映画なのか、ということです。この映画が、観客のメインターゲットとして想定したのは一体どの層なのか。あるいは、誰なのか。です。
「汚く、みんなで現実を生きていくよ」。はて、誰に言っているのか?
映画『君たちはどう生きるか』のメッセージは、「汚く、みんなで現実を生きていこうぜ」ていうことだと私は予想しているのですが、物語の構造上、このメッセージへ導いたのは、義理の母であり、実の母なんですよね。
主人公・眞人には、父を乗り越え、実母を助けられなかったというトラウマがある。このトラウマを乗り越えるために、自らの精神世界へ冒険に出て、義母を救い出す。義母を救い、現実世界へ帰還する際に、汚いシンボルをたくさん連れてくるのですが、その汚さと一緒に生きていく。
こうした眞人の行動の源は、シンプルに突き詰めると、けっきょく、「お母さん大好き」「おかん大好き!」ていう気持ちなんですよね。
実母も義母も両方大好き。だから救いたい。義母を救うと、実母のを救えなかった父を代理的に乗り越えることができる。そうすると、義母も眞人自身のものにすることができる。
ていうくらい、眞人は母が大好きなんですよ。
誰の「お母さん」なのか
てなると、この「オカン大好き」映画を見て喜ぶのって、お母さん層だと思うんですよ。眞人くらいの年齢の子どもがいる。眞人って、12 〜 13 歳くらいでしょうか。
12 〜 13 歳の男の子って、難しいですよね。急にコミュニケーションがとりづらくなるというか。それこそ、官能的な刺激に肉体が応えられるようになる年齢で、隠し事も増えますよね。そういう男の子が、本音のところでは、「オカン大好き」て言っている映画なんですよ。
これ、宮﨑駿がマザコンていう結論では少しもったいないですよね。
この映画の客層には、子どもに連れられて観に来たオカンもいると思うんですけど、この映画を観てオカンは大満足なのではないでしょうか。
私はオカンではないので想像ですけど、ということは、この映画の客層としてのメイン・ターゲットって、オカンなんですよね。実は。この映画でいちばん持ち上げられているの、オカンですし、オカン大満足ですから。
それで、今ですね、12 〜 13 歳くらいのお子さんをお持ちの世のお母さん、て、30 代後半から、40 代前半? くらいですかね。
現代、30 代後半から 40 代前半の日本社会で育った女性って、まさに、子どもの頃にね、トトロや魔女宅を観て、どハマりした経験のある方、多いと思います。
宮崎駿の人生を関連させると、ヒミは宮崎駿の母親がモデルでしょうけど、ヒミはですね、いまちょうど、12 、3 歳の子がいるジブリファンの女性の少女時代なのではないか、そうとも考えられますよね。
私の勝手な意見ですけど。
映画『君たちはどう生きるか』の限界
ですので宮崎駿は、いま、30 代後半から 40 代前半の、トトロとか魔女宅とか、『おもひでぽろぽろ』もそうですけど、もののけ姫はちょっと怖いけど、『耳をすませば』がまた好き、みたいなね、かつてジブリを観て育った女性たちに、いままでジブリを応援してくれてありがとう、ていう意味で、「オカン大好き」な少年を主人公にした映画を制作して、この令和 5 年に公開したのではないでしょうか。
ただ、この点にまた、この映画の限界があると言うか。血のつながりとか、家族とかを大事にしすぎているのではないか、と思いますね。あと、性役割を固定しすぎていないか、とか。やはり、個人の生き方が多様化し、家族の在り方、性自認も多様化している現代に、「金持ちのボンボンがオトン無視しておかん大好き」ていう映画にはたしてどれだけの同時代的価値があるのか。議論の余地はあると思います。
とにかく、フロイトとか資本主義とか、そういう視点から物語構造を読み解くこともできるのですが、その上で、つきつめてシンプルに考えると、『君たちはどう生きるか』は、「オカン大好き」ていう映画ですね。
だから、ヒミは宮崎駿個人のオカン、というよりは、昔からジブリ作品を観て応援してジブリを育ててくれた、という意味での、オカン。の、昔の、魔女宅とかトトロとかの頃の、その当時の姿。
ていうですね。オカン・ターゲットの映画でした。
とうところがわたしのいまのところの結論です。