西洋音楽史、ロマン主義の9回目です。19世紀に入り間もなく始まったロマン主義は、現実を超えた「無限」「永遠」といったような、宇宙の真理や人間の生の本質といったような、そのような何かを求めて、芸術作品を表現しました。初期の代表者としてはシューベルト Franz Peter Schubert が挙げられ、これに続いてメンデルスゾーン Jakob Ludwig Felix Mendelssohn Bartholdy やシューマン Robert Alexander Schumann 、ショパン Fryderyk Franciszek Chopin らが活躍します。
そして彼ら3人とは別に、リスト Liszt Ferenc やワーグナー Wilhelm Richard Wagner がロマン主義における革新的傾向の強い動き、ドイツで開始します。後期ロマン派の始まりです。今回は、リストについてとりあげます。
1.生まれ
リストはハンガリーに生まれ、10歳になる前から天才ピアニストとして活躍、ヨーロッパ中の聴衆を魅了したと言われています。
2.作品の特徴
リストの作品、特にピアノ作品には、自分の演奏技術を誇示かのような練習曲、オペラや管弦楽曲のピアノ編曲が多く見受けられます。リストはこのために、単なるヴィルトゥオーソ virtuoso 兼作曲家として誤解されることがしばしばあります。しかしリストの作品には、緻密な構成と革新性が確かに認められると考えられています。
3.ピアノ曲
3−1.ピアノソナタ ロ短調
この作品は単一楽章形式ですが、そのなかに通常のソナタの有する4楽章の構成と、ソナタ形式が統合されています。大部分が最初の15小節間に現れる3つの主題動機の変容に基づいています。
3−2.〈エステ荘の噴水〉 Les Jeux d’Eaux à la Villa d’Este
〈エステ荘の噴水〉は、《巡礼の年 第3年》Années de Pèlerinage, Troisième Année の第4曲です。この作品では、9の和音の連続・平行5度・平行和音などを使用したり、和音を機能としてではなく音色的なニュアンスを表すために使用する手法がとられています。このため、後の印象主義音楽に大きな影響を与えました。
4.管弦楽作品
4−1.交響曲
1848〜61年、リストはヴァイマルの宮廷楽長を務めました。この間には主要な管弦楽作品が書かれました。例えば、《ファウスト交響曲》Eine Faust-Symphonie in drei Charakterbildern や交響詩12曲などです。
- 《ファウスト交響曲》
4−2.交響詩
交響詩は1850年頃リストが創始したジャンルです。
・《前奏曲》Les préludes
標題音楽の一分野で、オーケストラのために作曲された音楽作品を指します。通常は1楽章形式で、複数の楽章からなる作品は「標題交響曲」と呼ばれることがあります。リストの後は、
- スメタナ Bedřich Smetana
- ボロディン Алекса́ндр Порфи́рьевич Бороди́н
ら国民主義の作曲家、
- サン=サーンス Charles Camille Saint-Saëns
- フランク César-Auguste-Jean-Guillaume-Hubert Franck
といったフランスの作曲家が交響詩を作曲しました。
ドイツ系では、R.シュトラウス Richard Georg Strauss が有名です。
- 《ドン・ファン》Don Juan
5.晩年
リストは、晩年には調性から離れようとする傾向の作品も残しました。
- 《無調のバガテル》Bagatelle ohne Tonar
【参考文献】
- 片桐功 他『はじめての音楽史 古代ギリシアの音楽から日本の現代音楽まで』
- 田村和紀夫『アナリーゼで解き明かす 新 名曲が語る音楽史 グレゴリオ聖歌からポピュラー音楽まで』
- 岡田暁生『西洋音楽史―「クラシック」の黄昏』
- 山根銀ニ『音楽の歴史』