killwiz『GEN0ME』: 壊れた感情は、治るより先に歩き出す

11分11秒。アルバムと呼ぶには短く、シングルと呼ぶには形が多様。 killwizの2nd EP『GEN0M…

11分11秒。アルバムと呼ぶには短く、シングルと呼ぶには形が多様。

killwizの2nd EP『GEN0ME』は、6曲がビートスイッチで縫い合わされ、ほとんど一曲のように進んでいきます。音が切り替わるたびに場面は変わりますが、気分を落ち着かせるための休憩にはならない。歪んだ808、ノイズ、声の重なり、突然の沈黙、足元をすくうような加速。それらが次の曲への扉ではなく、感情そのものの変形として現れます。

このEPにあるのは、傷をきれいな物語に直す作業ではありません。怒りも、虚勢も、冗談も、自己嫌悪も、整理されないまま同じ身体へ押し込まれています。それでも身体は止まらない。

『GEN0ME』のおもしろさは、回復を歌うことではなく、壊れた感情がどんな足取りで前へ進むのかを、ビートの連続として聴かせるところにあります。

killwiz: 「かわいさで殺す」から、かわいさを逃げ道にしない場所へ

killwizは北海道出身。2018年、magical ponika名義でインターネットへ楽曲を発表し始め、『ミスiD 2020』のファイナリストに選ばれました。その後ponikaとして、e5、嚩ᴴᴬᴷᵁと組んだDr.Anonで活動。楽曲制作だけでなく、交渉やMV制作を担うリーダーでもありました。

Dr.Anon解散後、名義をkillwizへ変更します。由来は、かつてSNSのIDやネームタグに使っていた「kill with cuteness」。Spincoasterのインタビューでは、それを「負けたくない、自分の気持ちで戦っていく」という意味だと説明しています。

同じインタビューで語られる音楽遍歴は広いものです。FACT、相対性理論、ゲスの極み乙女、宇多田ヒカル、SALU。ネットラップからタイプビートの文化へ入り、Dr.Anonでは日本のハイパーポップ黎明期を内側から経験しました。特定のジャンルを忠実に再現するというより、歌、ラップ、電子音楽を、そのときの自分に必要な形へ組み替えてきたアーティストです。

2025年のEP『Schizophrenia』を経て、『GEN0ME』ではNGAと再び組みながら、以前のEDMポップやフューチャーベース的な光沢から距離を取ります。ジャーク、レイジ、デジコアと呼ばれる硬く冷たい音へ踏み込み、「kill with cuteness」の後半——cuteness——をいったん封じました。

ただし、かわいさが完全に消えたわけではありません。「てくてく」「プンプンスカ」「だらだら」といった言葉は残っています。それらが安心できる愛嬌ではなく、歪んだビートの上で妙に不穏なリズムへ変わる。かわいい語彙が避難所ではなく、刃物の柄として使われています。

6曲ではなく、6回の変異

『GEN0ME』は2026年3月18日、LOUDROIDから配信されました。作詞とボーカルは全曲killwiz。作曲、ビートメイク、ミックス、マスタリングをNGA、プロデュースをNGAとSEMが担っています。

タイトルは「GENOME」と「Generation 0, That’s me」を重ねたものです。親や過去から渡された設計図を、そのまま自分の運命とは認めない。自分を起点のゼロ世代として作り直す。その発想が、作品全体の構造にも入っています。

冒頭の「INTRO」は49秒しかありません。普通なら本編へ入るための助走ですが、ここでは感情へ点火するスイッチです。次の「GOLDSHIP」で複数の声が重なり、「生き様GOLDSHIP」というフレーズが標語のように反復されます。

この曲の自己肯定は、鏡の前で自分を褒めるような穏やかなものではありません。自分が嘘をつく人間だと先に認め、そのうえで他人の忠告や噂を振り払う。きれいになってから肯定するのではなく、格好悪さごと金色に塗って走り出します。

続く「YMGMFUCK」は、実父との断絶を扱った曲です。ここで重要なのは、トラウマが比喩へ隠されていないことです。名前を思わせる文字列をフックとして反復し、歪んだ808と攻撃的なフロウの中へ直接投げ込みます。海外のレビューサイトscrmblは、この曲を2026年の日本で発表された作品の中でも特に正面切った誠実さを持つ一曲と評しました。

しかしEPは、告白の重さへ居座りません。「TEKUTEKUWALK」へ入ると、怒りは足へ移ります。ジャーク/レイジの冷たい低音と、スパッタリングするような電子音。その上で「てくてく」という幼いオノマトペが、都市を異物として歩くリズムになります。

音楽ブログscrmblの短評は、この音を「壊れかけた悪魔のゲームボーイ」のようだと形容しました。かなり的確です。懐かしいデジタル音の輪郭があるのに、遊べるゲームとしては故障している。そこでkillwizは、正常な世界へ戻ろうとせず、壊れた画面の中を自分の速度で歩きます。

「UP B skit」は空気と視点を反転させ、最後の「RARATATA」へ接続します。ここでようやくビートは少し呼吸を取り戻しますが、安らかなエンディングではありません。家でだらける姿、怒ってふくれる様子、砂のように消える金。脱力した語感の隙間から、過去の暴力、自分の身体への嫌悪、薬の記憶が顔を出します。

それでも最後に置かれるのは、誰かから与えられる救済ではなく、自分へのハグです。勝利宣言ではなく、ほどけながら自分になること。EPの終点は「治った私」ではなく、「この状態でも私として進む」という暫定的な出口です。

ビートスイッチが、物語の動詞になる

ウェブ上のレビューは、ほぼ共通して『GEN0ME』の切迫感と連続性へ反応しています。

Patrick St. Michelはscrmblの月間レビューで、11分の作品を「一つの統一された表現が変異し、新しい層を見せていく」ものとして捉えています。ときに制御しきれず、ときに完全に噛み合う。その不安定さまで含めて、killwizの感情が作品を貫くと評価しました。

フランスの個人ブログmade in tokyoは、以前の作品より打撃力が増したと書き、「YMGMFUCK」「TEKUTEKUWALK」と、比較的落ち着いた「RARATATA」を評価しています。同時に、11分では短すぎるとも感じています。

日本語ラップ最前線のライブ評は、従来のエレクトロ/デジコア的な感触からジャークへ寄ったサウンドと、ラップの変化を指摘しました。DIGLE MAGAZINEは「TEKUTEKUWALK」の「てくてく」と「TECHTECH」の掛け合わせに注目し、都市を異物として歩く身体感覚を読み取っています。

ユーザーレビューにも同じ焦点があります。Album of the Yearでは、あるリスナーが「GOLDSHIP」から「TEKUTEKUWALK」までの3曲を高く評価し、killwizのフロウと書く力、NGAのプロダクションを称賛しています。SNSでも、全曲がつながることと、EP全体を一本のMVにした試みが紹介されました。

興味深いのは、評価が重なる一方で、ジャンル名が定まらないことです。レイジ、ジャーク、デジコア、ハイパーポップ。書き手によって呼び方が変わります。

これは説明不足ではなく、作品の核心でしょう。『GEN0ME』では、ジャンルが曲を収める箱になっていません。怒りが自己肯定へ、断絶が移動へ、移動が自己受容へ変わるたび、音楽も別の身体を必要とします。ビートスイッチは「展開を飽きさせないための工夫」ではなく、立つ、壊す、歩く、反転する、抜ける、という動詞を担当しています。

だから6曲をシャッフルすると、作品の強さはかなり失われるはずです。一曲ごとの完成度より、前のビートが次のビートへ傷を持ち越すことの方が重要です。

「リアル」を、理解のしやすさから取り戻す

『GEN0ME』の紹介文には、かわいさ、共感、理解を意図的に排除した作品だとあります。けれど、聴き手を拒絶するだけのEPではありません。

むしろ、理解しやすい物語へ整形されることを拒んでいます。

つらい経験を語る音楽には、しばしば「傷ついた」「乗り越えた」「いまは前向き」という順序が期待されます。『GEN0ME』はその順番を守りません。怒りの次にユーモアが来て、自己肯定の中へ嘘や醜さが入り、最後まで感情はきれいに一つにならない。それでもビートだけは先へ進みます。

killwizはSNSで「僕はラッパーでもHIPHOPでもないけど一番リアル」と書きました。その言葉は、ジャンルへの敬意を欠いた宣言というより、「リアル」を様式や資格から取り戻そうとする言葉に聞こえます。

過去を正しく説明できることより、過去が現在の声をどう歪ませているか。傷を克服したと報告することより、傷を持つ身体が今日どんなリズムで歩くか。『GEN0ME』が差し出すリアルは、その運動の方にあります。

11分11秒が短く感じられるのは、曲数が少ないからだけではありません。出口へ着いても、人生の問題は終わっていないからです。ただ、始まる前と同じ場所にもいません。

『GEN0ME』は治癒の記録ではなく、移動の記録です。壊れた者だけが通れる、というより、壊れたままでも足を出せる通路。その床を作っているのがNGAのビートで、そこを誰より生々しく歩いているのがkillwizです。

作品情報

  • アーティスト:killwiz
  • タイトル:『GEN0ME』
  • 形式:EP/全6曲
  • 配信日:2026年3月18日
  • 収録時間:11分11秒
  • レーベル:LOUDROID
  • ジャンル表記:Hip-Hop/Rap
  • 作詞・ボーカル:killwiz
  • 作曲・ビートメイク・ミックス・マスタリング:NGA
  • プロデュース:NGA、SEM

トラックリスト

  1. INTRO — 0:49
  2. GOLDSHIP — 2:06
  3. YMGMFUCK — 2:19
  4. TEKUTEKUWALK — 2:21
  5. UP B skit — 1:18
  6. RARATATA — 2:18

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