呼びかけ、滅び、朝の光——「mosi mosi?」「好きすぎて滅!」「MONTAGEM HIKARI」はなぜ流行るのか

「もしもーし、聞こえてる?」と声をかけられる。「好きすぎて」のあとに、突然「滅」と言い渡される。「朝の光の中…

「もしもーし、聞こえてる?」と声をかけられる。「好きすぎて」のあとに、突然「滅」と言い渡される。「朝の光の中で」と聞こえる声だけが、名前のない記憶のように流れてくる。

楽音「mosi mosi?」、M!LK「好きすぎて滅!」、BellyJay「MONTAGEM HIKARI」は、音楽的にも出自も違います。一曲目は新人の自己紹介、二曲目は10年以上活動する男性グループの歌謡ポップ、三曲目はフィリピンのプロデューサーによる1分29秒のダンス音楽です。

それでも、3曲がショート動画で強く響く理由には共通点があります。どの曲も、意味を最後まで完成させません。返事、主語、歌い手の身体といった重要な部分を空けたまま、聴き手へ渡します。いまのバイラルヒットは、完成された物語を鑑賞する曲より、続きを自分で演じられる曲から生まれるのかもしれません。

3曲とも、曲名より先に「口」が覚える

以前のヒット曲でも、CMのサビやカラオケの決め所が先に知られることはありました。ショート動画時代に変わったのは、断片が曲から切り離され、別の作品のように流通することです。

「mosi mosi?」では短いセリフ、「好きすぎて滅!」では文型とポーズ、「MONTAGEM HIKARI」では日本語らしく聞こえる一節が先に届きます。最初に覚えるのはアーティスト名でも曲名でもありません。自分の口で言え、自分の身体で再現できる数秒です。

この数秒は単なる試聴版ではありません。動画を始める合図、表情を変えるきっかけ、替え歌の型、風景へ感情を加えるフィルターとして使われます。現在のバイラル曲には、配信サービス上の「楽曲」と、他人の動画へ何度も宿る「使い方」という二つの作品があるのです。

楽音「mosi mosi?」——聴き手を一人だけ振り向かせる

楽音(ささね)「mosi mosi?」は2026年4月22日配信。2007年生まれの楽音にとって、初のオリジナル曲です。

最大のフックは「もしもーし、聞こえてる?」という話し声です。楽音は以前から、TikTokの弾き語り動画で曲前にセリフを置いていました。プロデューサーの向田民子は、その本人らしい話し方を曲へ残します。

「聞こえてますか?」ではなく「聞こえてる?」なので、不特定多数への案内より近く聞こえます。画面の向こうに何万人いても、自分一人だけを呼ばれたように感じます。そして質問なので、聴き手の中に小さな空白ができます。返事をする、振り向く、踊り始める。動画の投稿者は、その空白へ自分の動作を入れられます。

曲全体も普通の電話ソングではありません。キッチュな電子音に、「南極しらせ」や「CQCQ」といった無線や宇宙を思わせる語が混ざります。本人の生活から拾った自己紹介が、怪電波になって飛んでいくような曲です。

配信初週にはTikTok関連動画が総再生4億回を突破したと発表され、日本と韓国の使用楽曲ランキングで首位を獲得。K-POPアイドルを経て東南アジアや北米にも広がりました。Spotifyの表示も8月14日の確認時点で1,400万再生を超えています。

ウェブ上の感想を重ねると、若い歌い手の新曲なのに、受け手はしばしば「懐かしい」と書いています。ケンタロウさんのnoteは、MVコメント欄にあった30代視聴者の郷愁を手がかりに、capsuleやQ;indiviへ連なる平成の電子音として聴いています。ゆーたまさんも、渋谷系から中田ヤスタカを経由した響きが40代へ刺さると評します。一方、Billboard JAPANの分析は、本人が投稿してきたカバー曲への反応から、特徴的な声を初のオリジナル曲へ的確に移した点へ注目しています。

ここから見えるのは、単純な「若者向けTikTok曲」ではありません。10代には本人のキャラクターと踊れる新曲として届き、30代以降には渋谷系や電波系の記憶を起動する曲として届いています。同じ音が世代ごとに別の新しさを作るため、動画の外でも語る理由が生まれています。私の見立てでは、「もしもし」は聴き手への呼びかけであると同時に、令和と平成の耳を接続する回線でもあります。

ここで空いているのは「返事」です。曲が質問までを担当し、答えを投稿者へ渡しています。

M!LK「好きすぎて滅!」——文法の空欄が、替え歌を生む

M!LK「好きすぎて滅!」は2025年10月27日に先行配信されました。作詞はMUTEKI DEAD SNAKE、作曲・編曲は浅野尚志、振り付けは槙田紗子です。

題名はSNSの自動音声などで流行した「○○すぎてしぬ」をもとにしています。「しぬ」は強すぎるため「滅」に変えたと、M!LKの吉田仁人は説明しています。しかし、表現を弱めるための一文字が、国や文明まで終わりそうな大きさを曲へ与えました。

おもしろいのは、「何が滅びるのか」が書かれていないことです。公式の説明では、好きすぎる自分が滅びそうな愛です。それでも主語と目的語がないため、相手も二人も世界も勝手に滅ぼせます。

さらに「好き」の部分を食べ物、推し、動物、日常の失敗へ入れ替えられます。楽音の曲が返事を空けているなら、M!LKの曲は文法を空けています。短い言葉が完成品ではなく、誰でも書き換えられるテンプレートになっています。

音は少し懐かしい歌謡曲とラテン風の熱気を持ち、5人はスタンドマイクの前で全力で歌います。サビには一目で分かる「滅」のポーズがあり、上半身だけでも参加できます。言葉はもじりやすく、身体は真似しやすい。それでもフル尺には歌謡ショーの起伏があり、ネタだけで終わりません。

2026年上半期のBillboard JAPAN Hot 100では2位、Streaming Songsでも2位、UGCのみを集計するTop User Generated Songsでは4位。MUSIC AWARDS JAPAN 2026のカラオケ特別賞J-Pop部門では1位になりました。

TikTokで使われる数秒から、カラオケで一曲歌われる作品へ移ったことが重要です。空欄は参加を招き、歌の完成度が参加者をフル尺へ連れていきました。

noteでは、バズの外側からファンになった人の記録が見つかります。さささんは、当初M!LKを「イイじゃんの人たち」ほどにしか知らなかったのに、TikTokで何度も流れるサビが耳から離れず、楽譜を作るほど聴き込んだと書いています。これは「認知→興味→ファン化」が、メンバー紹介ではなく一節の反復から始まる実例です。

分析系の記事では別の焦点も出ています。山本慶太朗さんのnoteは、コメント欄やネタ動画で「好きすぎて滅!」という言葉自体が使われる点を、推し活文化と結びつけます。TOMOSUBAの調査記事も、曲を知らない層へ「滅」だけが浸透し、日常の出来事を「○○すぎて滅」と言い換える二次拡散に注目しています。TikTok自身も上半期トレンド大賞で、真似しやすい振り付けが投稿の連鎖を生んだ「共創型トレンド」と評価しました。

三者の記述を合わせると、ヒットしたのはサビだけではなく、感情を投稿へ変換する短い記法です。「好き」を大げさに言いたい推し活の需要が先にあり、曲がそこへ一文字の便利な出口を置きました。私の見立てでは、これは替え歌というより、楽曲から日常語へ移植できる小さなアプリに近いものです。

「MONTAGEM HIKARI」——歌い手のいない声へ、自分の記憶を入れる

BellyJay「MONTAGEM HIKARI」は2026年1月14日配信。フィリピン在住の23歳のプロデューサーが、J-POPやボカロの影響とPhonk系のビートを混ぜた1分29秒の曲です。

日本では「朝の光の中で」と聞こえる声が広がりました。内容は親密で、懐かしい記憶のようです。しかし、その歌声と日本語詞がどのように作られたのかは確認できません。AIボーカルと紹介する記事もありますが、一次情報がなく、作者も取材で作詞について回答していません。したがってAI生成と断定はできません。

この曲で空いているのは、歌い手の身体と物語です。誰が、どの朝を思い出しているのか分からないため、聴き手は自分の朝、風景、恋愛、冗談を入れられます。意味は近いのに、作者像は遠い。その距離が、声を個人の物語から切り離しやすくします。

TikTokではダンスだけでなく、風景、自己紹介、ネタ動画へフレーズが移されました。Spotifyの表示は8月時点で2,300万再生を超え、Billboard JAPAN Hot 100には9週入りました。海外で再解釈された「日本らしい声」が日本へ戻り、通常のストリーミングへ人を動かしています。

ただし、この匿名性は魅力だけではありません。歌手、作詞者、元音源、権利関係へたどり着けないまま声が流通する危うさがあります。使いやすい空白が大きいほど、誰の創作物なのかも見えにくくなるのです。

この曲について検索すると、受容そのものが「元ネタ探し」になっていることが分かります。デジタマブログは「出所の分からない日本語」と海外ビートの組み合わせを「匿名性の高いエモさ」と捉えています。別のブログはJapanese FunkやPhonkの文脈から曲の出自を調べています。YouTubeには「朝の光の中で」を掲げた歌詞動画だけでなく、1時間耐久版まで投稿されています。曲名や作者より、聞こえた日本語の断片が検索語と作品名の代わりになっているのです。

同時に、ウェブ記事の説明は一致していません。AIボーカルの可能性を強く書くブログもあれば、元音源はないと断定する記事もありますが、作者による十分な説明は確認できません。この食い違いはノイズである一方、流行の一部でもあります。正体を知りたいという検索行動が、さらに曲を流通させるからです。私の見立てでは、この曲の「空白」は投稿だけでなく、解説記事まで生成しています。

3曲の共通点は、「意味」ではなく「未完了」

ここまでをまとめると、3曲には次の違いがあります。

  • 「mosi mosi?」では「懐かしいのに新しい」「声が魅力的」という評価が反復されます。本人の人格は濃く、聴き手の返事と世代記憶を空けています。
  • 「好きすぎて滅!」では「耳から離れない」「言葉だけでも使える」「振りを真似しやすい」という評価が重なります。5人の熱演を前面に出しつつ、文型を誰にでも開放しています。
  • 「MONTAGEM HIKARI」では、感想より先に「これは何の曲か」「誰の声か」という探索が起こります。声そのものを前面に出し、歌い手の人格と由来を大きく空白にしています。

人格の濃さは正反対です。それでも、聴き手が完成させる余地がある点は同じです。

ショート動画では、曲を好きになる前に使うことがあります。使うためには、完成された主人公を眺めるより、数秒だけ自分が主人公になれる方が便利です。質問に返事をする。文型を書き換える。匿名の声へ自分の風景を重ねる。3曲は別の方法で、聴き手へ役を渡します。

「流行っている」を判断する三つの移動

再生数だけでは、広告で一度見られた曲と、文化の中で使われている曲を区別できません。3曲には、三つの移動が見えます。

第一はプラットフォーム間の移動です。TikTokからSpotify、Billboard、カラオケへ進んでいます。とくに「好きすぎて滅!」は、短尺からカラオケ1位へ到達しました。

第二は界隈間の移動です。楽音の曲は日本から韓国のアイドル、東南アジア、北米へ渡りました。「MONTAGEM HIKARI」は逆に、フィリピンから日本へ入りました。

第三は意味の移動です。「もしもし」は呼びかけの演技へ、「滅」は替え歌の文型へ、「朝の光の中で」は風景や冗談へ変わりました。元の歌詞を紹介しなくても断片が働く段階に入っています。

複数の移動が起きているなら、その曲はタイムラインで消費されただけではありません。人の声、身体、記憶へ場所を変えながら生きています。

いま強い曲は、答えまで歌わない

3曲は、バイラルを狙えば意味を薄くすればよい、と示しているわけではありません。むしろ必要なのは、何を強く提示し、何を聴き手へ渡すかという設計です。

楽音は本人らしい呼びかけを強くし、返事を渡しました。M!LKは歌とダンスを全力で完成させ、文法を渡しました。BellyJayは声とビートを強くし、声の背景を空けました。

曲がすべてを説明しないから、聴き手はただ再生するだけでなく、返し、変え、重ねます。「なぜ流行っているのか」という問いへの答えは、3曲の中だけにはありません。曲が残した空白へ、何百万人もの人が続きを入れている。その参加そのものが、現在のヒットを作っています。

参考資料

楽音「mosi mosi?」

M!LK「好きすぎて滅!」

BellyJay「MONTAGEM HIKARI」

※公開情報と数値は2026年8月14日に確認しました。SNS・配信サービスの表示値は更新されます。

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